海外デジタル政策ログ

海外のデジタル政策を気まぐれに観察するブログです。元「丸の内OLの気まぐれGovTech日記」です。

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【EU】「欧州イノベーション・スコアボード」の2022年版を発表

欧州委員会(EC)が、「欧州イノベーション・スコアボード」の2022年版をリリースしたようですね。この文書は、EUの加盟国と周辺国の人的資源等のイノベーションに関する各種指標を明示化し、各国の強みを比較分析したものです。

EU加盟各国が、自国のイノベーションにおける長所と短所を自己評価し、課題を特定するのに役立たせることが目的としています。

公共分野とは直接関係がないかもしれませんが、目に留まったので読んでみました。

 

(概要和訳)

2015年以降、EU全体及び大体の加盟国において、イノベーション指標が向上しています。パフォーマンスが最も上昇したのは、キプロスエストニアギリシャです。クロアチアポーランドの2つのエマージング・イノベーターでは、イノベーション・パフォーマンスがEU平均よりも速く成長しています。

(press一部和訳)

欧州委員会は本日「欧州イノベーション・スコアボード」の2022年版を発表し、EUイノベーション・パフォーマンスが2015年以降約10%伸びていることを明らかにしました。2021年と比較して、2022年のイノベーション・パフォーマンスは、19の加盟国で改善し、8つの加盟国で低下しました。EUの平均と比較すると、オーストラリア、カナダ、韓国、米国といった世界の競合国は、引き続きEUに対してパフォーマンスの優位性を持っています。とはいえ、EUはこれらの国とのパフォーマンスの差を縮め、2021年以降、日本を上回っています。

主な調査結果
加盟国はイノベーションスコアに基づき、4つのグループに分類されます。

  • イノベーション・リーダー(EU平均の125%以上)
  • 強力なイノベーター(EU平均の100%以上125%未満)
  • 中程度のイノベーター(EU平均の70%以上100%未満)
  • 新興のイノベーター(EU平均の70%未満)

スウェーデンは、引き続きEUで最も優れた業績を上げています。その他のイノベーション・リーダーは、ベルギー、デンマーク、オランダ、フィンランドです。

EUイノベーション格差は依然として残っています。同じパフォーマンスのグループは地理的に集中する傾向があり、イノベーションリーダーと殆どの強力なイノベーターは北欧と西ヨーロッパに、中程度のイノベーターと新興のイノベーターの殆どは南欧と東ヨーロッパに位置しています。

EUは、2015年から2022年の間に、中国を除くすべての世界の競合相手に対して相対的な地位を向上させました。その結果、EUは、オーストラリア・カナダ・韓国・米国とのイノベーション・パフォーマンスの格差をいくらか縮めました。韓国は、選択されたグローバルな競争相手の中で、引き続き最も革新的な国です。

今年の欧州イノベーションスコアボードは2021年版と同じ指標の枠組みに基づいており、研究体制、企業の研究開発投資、情報技術の活用など12次元に分類された32の指標から構成されています。

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国連電子政府調査2022、デンマークが首位 日本は市民参画部門で首位

国連電子政府調査2022(United Nations E-Government Survey 2022)が2022年9月28日にリリースされました。 

www.un-ilibrary.org

国連電子政府調査2022の表紙

 

国連電子政府調査とは

国連の経済社会局(DESA;Department of Economic & Social Affairs)による、各国のデジタル化の進捗調査報告書です。2001年から2年ごとに発行されており、国連全加盟国193か国を対象とした同内容の調査としては世界唯一とされています。

評価手法は、行政デジタル化の状況を3指標で評価のうえ平均し、国連電子政府開発指数(EGDI;e-Government Development Index)として総合点を算出します。3指標は以下の通りです。

  • オンラインサービス指標(OSI;Online Services Index)
  • 人材能力指標(HCI;Human Capital Index)
  • 通信インフラ指標(TII;Telecommunications Infrastructure Index)

EGDI 国連

 

結果

総合結果

デンマークが首位(3度目)、日本は14位でした。

国連電子政府調査、デンマーク

 

報告書にて"Denmark"が含まれる文周辺を一部和訳

 

日本の評価ポイント

e-participation部門では日本が首位でした。

e-participation 市民参加

e-participation(電子行政参加)に関する1.8.7.章を一部和訳

電子行政参加指標(EPI;e-Participation Index) は、3つの観点から市民参加を評価します。

  • 情報提供 - 政府による国民への情報提供
  • 協議 - 政策策定プロセスや行政サービス提供プロセスに市民を巻き込む
  • 意思決定 - 国民を意思決定に関与させる

日本は EPI 値が 1.0 であり、3つの観点すべての機能がポータルに含まれると評価されました。2位はオーストラリア、3位はエストニアシンガポール、5位はオランダでした。

 

自動処理社さん提供のアイデアボックスが寄与されているようですね。

 

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【英国】国家統計局、政府データの活用度を効果的に測る取組を推進

英国政府の「政府データ品質ハブ」(DQHub;Data Quality Hub)が、政府データの活用度を効果的に測る取組に関する記事を公開していますね。

政府データ品質ハブは国家統計局の中の一組織で、公共部門全体のデータ管理を向上させるために、以下の活動を行っているようです。

  • データ品質に関する政府全体への戦略的方向性の提供
  • ガイダンスの作成と公表
  • 公共部門に特化したトレーニングやサポートの提供

本記事は、この組織が、「政府におけるデータの活用度を効果的に測るためのモデル」を作る道程を解説した記事のようです。個人的に、読み物としてとても面白かったです。

(一部和訳)

過去2年間、国家統計局の政府データ品質ハブは、政府に特化したデータ成熟度モデル(DMM)を設計、構築、テストすることに取り組んできました。この作業は、国家データ戦略のミッション3をサポートし、より良い公共サービスのために政府のデータ活用を変革することを支援します。自組織におけるデータ利活用の成熟度を理解することで、データの課題・機会をより精密に特定し、効果的に目標とする改善を計画することができます。

本プロジェクトでは、政府横断的なWGと公共部門全体のデータ専門家を活用し、政府全体で使用できるモデルを作成しました。また将来を見据え、本モデルを政府全組織へ展開する役割を担うCDDOとも密接に連携しました。

この記事ではデータ品質ハブがどのように政府データ成熟度モデルを開発したか、背景調査からモデルの構築、政府全体での試験運用まで簡単に概観します。また、パイロット版から得られた知見と政府データ成熟度モデルの次の展開についても簡単に説明します。

  • データ成熟度モデルとは
    データ成熟度モデルは、組織が保有するデータを最大限に活用するための準備がどの程度整っているかを測定するための構造化手法です。このモデルは、自組織の強みを特定することでデータから得られる価値を向上させることができる領域を特定するのに役立ちます。政府におけるデータ成熟度モデルは、現在の成熟度の評価、改善のための目標の特定、目標達成方法の計画を通じて、組織をサポートするためのツールとなります。
  • モデル作成にあたって
    データ成熟度を評価するための参考情報はとても多いです。私たちは公共、民間、サードセクターにおける既存の成熟度モデルを調査することから作業を開始しました。技術的なデータ管理に焦点を当てたモデルもあれば、組織文化やビジネスリーダーの関与を調査するような、より人に焦点を当てたモデルもあります。また、データの特定の分野を深く掘り下げるものもあれば、データの管理と使用に関する広範な組織的見解を検討するものもあります。

    私たちの目標は、データの価値を引き出すための政府組織の準備態勢を効果的に評価できるデータ成熟度モデルを作成することでした。国家データ戦略で特定された課題とアクションに沿って、優れたデータ管理の文化的、戦略的、技術的側面を扱うモデルである必要がありました。また政府の全分野におけるデータの改善をサポート可能な単一モデルである必要がありました。よって、モデルは次の要素を含む必要がありました:

    • 幅広い、徹底的、アプローチしやすい、公共部門に関連するもの、ハイレベルで成果に焦点を当てたもの、戦略的なリーダーに伝わりやすい

これを踏まえ、私たちはData Orchard社のData Maturity Frameworkを採用してモデルを作成することにしました。同社のフレームワークは現代的で、また技術的なデータ管理だけでなく、文化やリーダーシップの観点も含む、対応分野が幅広いです。ユーザビリティも高く、複雑な構造のデータが示す情報について一般市民に伝えることをサポートするように設計されています。またこのフレームワークは、地方自治体や中央政府などの公共セクターにおいて既に使用実績がありました。ただ、このフレームワークも、私たちが求める全ての要素を満たしている訳ではありませんでした。

 

~中略~

 

最終的なモデルは、データ管理に関する10の中核的なトピックを軸に、文化、スキル、ツール、リーダーシップ等の観点を横断してデータの成熟度を評価できるものとなりました。成熟度は「入門」レベルから「マスター」レベルまで、様々なレベルによって測定されます。

試行に参加した組織は、データ成熟度モデルに照らして自らを評価し成熟度スコアを作成するために、様々なアプローチを試みました。評価のアプローチに柔軟性を持たせることは、非常に重要であることが証明されました。

  • 調査結果
    モデルの有用性が証明されました。特に、データ成熟度の評価を完全に行うことは未だ難しいが、データの有用性の理解促進や強みの発見、弱み改善に向けた領域を特定する手段の提供においてとても有用であることが分かりました。
  • 次のステップは
    データ品質ハブは役割を終え、モデルをCDDOに引き継ぎました。現在、モデルに関するガバナンスを確定し、データ成熟度の評価作業を実際の政府データ等と連携させる作業が進められています。

 

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【英国】NCSC、「機械学習におけるセキュリティのための原則」公表

英国のNCSC(国家サイバーセキュリティセンター)が、「機械学習におけるセキュリティのための原則」を公表したようですね。

公共部門においてMLを活用したシステムに関わる方たち向けに作られたもののようです。

以下一部和訳です。

(紹介)

AIやMLの利用によって、システムは基盤となる情報処理アルゴリズムやワークフローを悪用した新しいタイプの攻撃に対して脆弱な状態に置かれています。AIやMLを活用したシステムのセキュリティのすべての側面が潜在的に脆弱であり、システムの機密性、完全性、可用性のすべてが損なわれていることが過去に確認されています。これらの脆弱性を正しく理解・緩和しなければ、システム設計者はステークホルダー、そして最終的にはユーザーに対して、AIシステムの安全性を保証することができません。

(対象読者)

AIやMLを活用したシステムを開発、展開、運用するすべての人に広く適用されることを目的としています。~科学者、技術者、意思決定者、リスク所有者が、システムの設計と開発プロセスについて賢明な判断を下し、システムに対する特定の脅威を評価するのに役立つコンテキストと構造を提供します。

(構成)

  • 開発の前提条件と考慮事項

     

    • 開発者の支援、セキュリティのための設計、敵の知識を最小化

  • 要求仕様と開発

     

    • セキュリティ(脆弱性)を考慮した設計、サプライチェーンのセキュリティ確保、インフラ(開発環境)の確保、インフラ(デジタルアセット)のセキュリティ確保、資産の追跡、セキュリティ設計 (モデル・アーキテクチャ)

  • デプロイ

    • インフラの安全性確保、セキュリティのための設計、敵の知識を最小化

  • 運用/継続的学習

    • セキュリティのための設計、資産の追跡

 

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【英国】CDEI、「自動運転車における責任あるイノベーション」公表

英国のデータ倫理・イノベーションセンター(CDEI)が、「自動運転車における責任あるイノベーション」を公表したようですね。

先日の自動運転車に係る計画と同時に公表されていたようです。

自動運転

自動運転の導入を推進するために、政策立案者及び事業者・トライアル実施機関がとることを推奨するガバナンス事項として、以下の7つの観点を挙げています。

1.    交通安全
2.    データプライバシー
3.    公平性
4.    説明可能性
5.    データの共有
6.    社会的信頼
7.    ガバナンス

 

(press和訳)

CDEIは、自動運転車の規制とガバナンスに対する信頼性の高いアプローチに関する提案をまとめた報告書を発表しました。

CDEIは、Centre for Connected and Autonomous Vehicles(運輸省とビジネス・エネルギー・産業戦略省の共同政策ユニット)の委託を受け、自動運転車の将来の規制とガバナンスに情報を提供するために専門家の助言を得ています。本報告書におけるCDEIの提言は、政府の「Connected and Automated Mobility 2025」を直接的にサポートするものです。このロードマップは、イノベーションを可能にしながら自動運転車に対する信頼を築くための新たな法的枠組みの開発を約束するものです。

*次のステップ
本報告書は、コネクティッド・自律走行車センターがこの分野の一次法および二次法を策定する際の参考となります。 自動運転車に関する新たな法規制の枠組みの導入が始まれば、その開発を引き続き支援していく予定です。

 

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【英国】CCAV、自動運転車に係る計画「コネクテッド&オートメーテッド モビリティ2025」公表

英国のCCAVが、自動運転車に係る計画「コネクテッド&オートメーテッド モビリティ2025~英国における自動運転車導入の利点~」を公表したようですね。

自動運転、モビリティ

(press和訳)

本書は、社会的・経済的利益をもたらす自動運転車の安全な普及を支援するための政府のアプローチを説明するものである。

これには、以下に対する政府の回答が含まれている。

  • イングランド及びウェールズの法律委員会とスコットランドの法律委員会が実施した自動運転車に関する法律のレビュー
  • 英国のコネクテッド・モビリティおよび自動運転モビリティ分野の将来に関する証拠収集の呼びかけ

これは、安全な自動運転車のための新しい法的枠組みを約束するものである。この新しい枠組みは、安全性を確保しつつ、イノベーションを可能にするものである。

 

以下部分的に和訳しました。

 

(モビリティの未来に向けた9つの重要な原則:都市戦略)

政府はすでに、将来の交通に関するビジョンを定義し、移動手段における大きな変化の機会を活用し、予期せぬ結果を軽減する方法を示す9つの原則を定めている。

貨物、旅客、サービスのための都市型モビリティの革新を促進する上で、政府のアプローチは、可能な限り以下の原則に裏打ちされたものとする。

  1. 新しい輸送手段と新しいモビリティサービスは、設計上安全でなければならない。
  2. モビリティにおけるイノベーションの恩恵は、英国の全地域と社会のすべての層が享受できるものでなければならない。
  3. 歩行、自転車、アクティブ・トラベルは、都市の短距離移動のための最良の選択肢であり続けなければならない。
  4. 大量輸送は効率的な交通システムの基本であり続けなければならない。
  5. 新しいモビリティサービスがゼロエミッションへの移行をリードしなければならない。
  6. モビリティの革新は、限られた道路空間をより効率的に利用することで、渋滞の解消に貢献しなければならない。 例えば、乗り物の共有、占有率の向上、貨物の集約化などである。
  7. モビリティの市場は、イノベーションを刺激し、消費者に最良の取引をするために、オープンでなければならない。
  8. 新しいモビリティサービスは、公共交通機関、民間交通機関、複数の交通手段を組み合わせた統合交通システムの一部として運用されるように設計されなければならない。
  9. 新しいモビリティサービスからのデータは、適切な場合には、以下のように共有されなけれ ばならない。交通システムの選択と運用を改善する

 

(政府によるCAMの2025年ビジョン)
2025年までに、英国は自動運転車の配備を開始し、人や物の移動方法を改善し、本技術の初期の商業市場を創出する。
この市場は、包括的な規制、法律、安全の枠組みによって可能となり、英国の強力なサプライチェーンと技能基盤に支えられ、企業や一般市民が同様に自信を持って利用できるようになる。

 

 

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シンガポール版マイナンバー「Singpass」発展経緯

シンガポールでは行政サービスに使う個人ID「Singpass」を使った取り組みが2003年から進められています。本記事では、本サービスの発展経緯についてまとめます。

注:主にこちらのニュースサイトを和訳する形でまとめています。

www.computerweekly.com

 

目次

 

Singpassの概要

Singpassとは何か?

Singpassは、シンガポールの行政サービスに用いる電子IDで、700以上の行政サービスへのアクセスや個人認証に使われています。主に年金関連手続き、保険契約の電子サイン、パスポートの更新通知、ワクチン接種証明書の発行などにも使われています。

シンガポール版マイナンバー「Singpass」サイトトップページ

 

現在の利用状況

利用者は約450万人で、15歳以上の市民と永住権保持者の97%を占めています。

 

詳細・導入背景

もともとは行政サービスへのSSO機能提供を目的として開始され、運転免許証のデジタル化などに寄与してきました。コロナ流行時に、開発元である政府技術局のチームが感染症関連の機能をSingpassのアプリに迅速に構築しました。その結果、接触者の追跡やワクチン接種のデジタル証明書、渡航時の検査結果などがデジタル化され、利用者が急増しました。

民間企業でもAPIが多く使われています。たとえば、金融機関では、顧客の許可を得たうえでMyinfoといわれるAPIを使ってユーザ情報を取得しています。これにより、口座開設申請簡易化による申請工数が最大80%短縮、顧客獲得工数の削減を実現しました。

 

技術基盤

政府は2023年までに政府システムの7割を商用クラウドに移行する目標を掲げていますが、Singpassは現在ほぼ完全にクラウド上にあります。

また、シンガポール政府は英国政府と2019年に締結した覚書に基づき、デジタルIDの相互承認に向けた取り組みを進めています。

 

市民からの信頼の獲得

サービスが広く普及したのは、数十年にわたって築かれたシンガポールの高い信頼社会の賜物です。

サービスの導入時、市民からプライバシー侵害に関する強い議論はありませんでした。しかし政府は市民からの信頼を当然と捉えず、デジタルトラスト構築に向け、サービスが透明性、安全性、プライバシー、セキュリティ、信頼性、データ倫理を充足するために尽力してきました。とくにセキュリティは最優先事項であり、セキュリティ要件を満たすための厳格な基準を設けるとともに、市民からの信頼を維持するためにさまざまなテストを実施しています。

 

記事は上記までの内容で終えていますが、ほかにも開発の裏側について、NDIのブログで解説されています。

medium.com